[入院生活]
10年ほど前の夏、肝炎に感染して入院してしまい、「寝ていてもしんどい」ということを初めて経験しました。担当医の話では、自分の免疫力でウイルスに打ち勝たなければならないので、特に薬は使わずに栄養をとって安静にすることが入院の目的だということでした。
そんな中、絶対安静だと言われているにもかかわらず、喫煙室まで這っていくようにしてタバコだけは吸っていました。当時、喫煙量はショートホープを1日3箱(30本)くらい。
中学、高校の時にたまにふかすことはあったのですが、日常的に吸い出したのは大学に入学した18歳の頃からで、この時36歳でしたから通算20年近くになっていました。
2、3日ベッドに横になっているだけの生活を続けるうちに、『時間がもったいないな。』という気になってきたのです。予定では1、2ヶ月もこんな生活を続けなければならないことになっていて、それを考えるとうんざりしてしまうのです。(実際には経過がよく、4週間ですみました。)
この入院を何か意味のあるものにしたい、寝ながら何ができるだろうか、と考えていて何故かふっと「禁煙」を思いついたのです。
今まで成功していなかった禁煙を達成できれば、ただ寝ているだけの生活も意味のあるものになると思ったのです。
まず考えたのは、『この1本を吸ってから。』と最後の1本を手にしないことでした。今我慢できないことはこの先も我慢できないと思ったからです。
次に、タバコとライターは捨ててしまわずに手元に置いておきました。
これは今までの失敗経験から、吸いたくて仕方なくなるとタバコのないことが不安でたまらず、結局買ってしまい、買うと吸ってしまうという悪循環をなくすためです。手元にあるから、いつでも吸える、だからもう少し我慢しよう、という安心感を得るためです。
こうしてスタートした禁煙生活ですが、入院しているので寝たきりです。このことが、私が禁煙に成功した一番の要因であったことは間違いありません。ですから、普段の生活をしながら禁煙に取り組もうと考えている方には、参考にもならないかもしれません。けれど、何か応用できることがあるかもしれない、それで少しでもお役に立てればという思いで書いております。
2~3日過ぎると頭がぼ~っとしてきました。蜘蛛の巣でもはったような感じというのでしょうか。禁煙に取り組む人がみんなこうなるのかどうかは分かりませんが、この時期を乗り切れたのは「寝て過ごせた」ということにつきると思います。ですから、禁煙に取り組む一番の方法は、4~5日休める時に行うということだと私は思っています。でも、仕事をされている方や、主婦の方は難しいでしょうね。
1週間くらいすると、頭の方もすっきりしてきて、肝炎の方も快方に向かいました。「今日も元気だタバコがうまい」じゃないですが、寝ているだけではつまらなくなってきて、タバコの誘惑に負けそうになってきました。この時期に私がやったのは、タバコの害についての本を読む、ということでした。
朝から晩まで、本を読む時間はあるわけですので1日で1冊読んでしまいます。読んでいるときは、知らなかったこと、というか何となく知っていたけどあえて見て見ぬ振りをしてきたようなこと、特にガンとの関連性などにショックを受け、『禁煙生活を絶対に続けるぞ』という気にさせられるのです。
ところが、1日たち、2日たちしてくると、その意識が薄れてきてまたまたタバコの誘惑に負けそうになってしまうのです。そうして、また新たな刺激を求めて本を読みました。
1冊を何度も読むということが嫌いな私はこうして5冊を読んで、「もう本屋さんに、タバコの本ないよ。」と買いに行ってくれていた連れ合いに言われて、読書は終了となりました。
これが、禁煙を始めてから2週間目くらいでした。この頃には、吸わないで生活する自信めいたものができていました。手元のタバコとライターも捨ててしまいました。
3週間くらいたって、コーヒーを飲みに行くことを主治医から許可された私は、病院のとなりにある喫茶店に強い陽射しにくらくらしながら向かいました。
ここで、退院後の課題を知らされることになりました。他のお客さんの吸うタバコの煙が恋しいのです。漂ってくる白い煙に深呼吸をしてしまっていました。『これはやばい』と思い、早々に引き上げることにしたのです。
[ 退院後の生活 ]
寝たきりの生活というのが、これほどまでに体力を奪ってしまうものなのか、という驚きとショックを受けました。とにかく何をするにも馬力が出ないのです。そんな時でも、まず向かったのが好きなパチンコ店でありました。
入院中の喫茶店でのことを忘れていなかったので、薬局で「タバコの煙もカット」というマスクを買ってから行きました。これは結構効果があって、煙に誘惑されることはあまりありませんでした。
しばらく自宅で休養してから仕事に復帰しました。職場では、机に向かって考え込んでいるときや、うまくいかずにイライラしてきたときにふっと、悪魔のささやきが聞こえてきます。その対策としては安易にあめ玉に頼ってしまいました。
口が寂しいとよく言いますが、まさにその状態で、それを紛らすのにはあめ玉が手っ取り早かったのです。引き出しの中に常に、のど飴やキャンディーのたぐいが入っているような状況が1~2ヶ月続いたと思います。
禁煙パイポも試してました。
口の寂しさを紛らすのに結構良かったのではないかと思います。でも、タバコに対する未練を引きずってしまっているようで、なさけなくなってきてすぐにやめてしまいました。
そして、口が寂しいという感覚はそのうちなくなってしまいました。こんなことなら、あめ玉など最初からやめておけば良かったと、その時になって思いましたが、禁煙を始めた当初は、何か口にしていないとそわそわする感じで落ち着かなかったのを覚えています。
次に喫煙の誘惑が多いと自分で警戒したのが、「飲み会」の席でした。しかしこれは肝炎で入院していたということで、断りやすかったし、どうしても出席しなければならないような酒席においても、周りも気にしてくれ、すぐに退席をしても咎められるようなことはありませんでした。ここでもやはり、入院ということが禁煙を実現させることが出来た大きな要因になっています。
[ 禁煙についてのまとめ ]
私が経験した禁煙生活から、私が考える成功させるための条件などをまとめてみます。
1.4~5日の連続した休みが取れるときに行う。
これは難しいことかもしれませんが、お盆休み、ゴールデンウイークなど、一生に一度禁煙のためだけに使うことがあっても有意義な使い方かもしれません。有給休暇などをいただけるなら、それにこしたことはないでしょうが。
そして、家族がおられる方には、家族の協力も当然必要です。だらだらと寝て過ごすための休みなのですから。
頭がボーッとしたり、イライラしたりすることに対しては、寝て過ごすことで、その期間をやり過ごしてしまうのが、一番の対処法だと思うのです。
2.タバコとライターはすぐ手元に、しばらく置いておく。
これは意外かもしれませんが、私はすぐに捨ててしまったときには結局失敗しました。吸いたくなった時に手元にないと、無い物ねだりのように、欲求が倍増されてしまうような気になったのです。
手元にあると、いつでもリタイヤできるのだからもう少し頑張ろうと思って、寝て時間を稼いでいました。
3.これを最後にしようという、勿体ぶった1本を吸わない。
思い立ったときからすぐに始めることが大切だと思います。『最後の1本を』と思って吸うタバコはとてもうまく感じて、未練を残してしまう気がします。
私の場合は、そうして吸った1本が後々まで尾を引いて、もう一度あの1本を吸いたいという気が残ってしまい失敗したこともありました。
4.タバコの害についてよく知ろうとすることが大切。
100 害あって1利なし、と言っても過言ではないくらいにさまざまな有害物質が含まれています。
それらの事実を知ることで、負けてしまいそうになる心にむち打つことができると思います。そして、禁煙をしてしばらくして勘違いであったと気づいたのは、「タバコを吸うと、頭がすっきりとする」と思い込んでいたことです。タバコを吸っていない人は、目覚めの一服なんかなくても、すっきりと目覚めることができるのだということがわかりました。タバコによってぼーっとさせられていて、それをまたタバコで目覚めさせるという悪循環に陥っているだけだったのです。
タバコの効能だと思っていたことも、実は勘違いだったんだと私は気づきました。
5.タバコの煙がたちこめるような場所にはしばらく行かない。
禁煙1週間くらいで、体の不調はなくなると思います。ニコチン中毒の症状は大きく緩和されているはずで、あとは気持ちの問題だと思います。
ところが、この気持ちとの戦いが結構大変で、ふっと『吸ってみようか』といつまでたっても思ってしまうのです。禁煙後2年たつくらいまで、私はタバコを吸う夢をよく見ました。
ですから、飲み会、パチンコ店、喫茶店などタバコの煙がたちこめるような場所にはできるだけ行かないようにすることが大切です。眠っている喫煙欲を揺り起こすことになってしまいます。ただ、私にはマスクは効果がありました。
煙そのものによる誘惑もさることながら、これらの場所は『手持ちぶさた』や『間が持てない』といったこれまでよく、自然にタバコをくわえていた状況が待っています。そうした状況をつくらないためにも、これらの場所をさけることが大切だと思います。
6.タバコを吸わなくなったことによる効能をかみしめる。
これは、思い過ごしもあるかもしれませんが、それはそれでいいと思います。
私の場合は、
「食べ物の味に敏感になった」
「朝、目覚めが良くなった」
「風邪をひきにくくなり、治りやすくもなった」
(タバコによってビタミンCが破壊されるそうです。)
「走ったときの、息切れの度合いが小さくなった」
「臭いに敏感になり、タバコのにおいのする車が嫌いになった」
(これは、自分の車もこうだったのかと思うと、つくづく禁煙して良かったと思えるのです。)
こうしたことをふっと思い出すたびに、禁煙を続ける決意を確認することが出来ると思います。
◇オーストラリア禁煙キャンペーンCM"tumor"編